Lecture #3: 統合的交渉
- Integrative Bargaining -
さてみなさん、お久しぶりです。すっかり前回の授業の内容をお忘れになったでしょう。も一回復習してみてください。
さて、今回は統合的交渉、Integrative Bargainingに話を進めましょう。
前回のお話しで、Distributive Bargainingの問題点はだいたい感覚的にわかっていただけたと思います。ようは、何かを分捕りあうとケンカになって交渉決裂してしまうよ、というところでしょうか。では、どのようにこの問題を解決すればいいのでしょうか?
端的に言えば、交渉事項、これをIssueと言いますが、Issueを増やすことによって合意に導かれることがしばしばあるのです。また具体例でいきましょう。
A社(発注元)はB社(下請け)にある部品を製造してもらおうと、契約の交渉に出向いていきました・・・。
A社:では、単価100円で、納品時に一括支払いということで。
B社:そんなの無理ですよぉ、だんなぁ。うちはいつも200円で請けてきたし、急に言われてもねぇ。
A社:そんなこと言われましても、100円以上は無理ですよ。景気も悪いし上司に強く言われてて・・・。
B社:おれだってぇ意地でぇ。200円以上出さねぇんだったらお宅とは縁切らせてもらいたいねぇ。
A社:そちらがそのようなおつもりでしたら結構です。どうぞ、勝手にしてくださいッ。
B社:ああ、勝手にすらぁ。出てぇけ、出てぇけ。カァちゃん、塩撒いといてくれぇ。
と、まぁ展開が少し早いですが、こんなケンカになってしまうこと、あるかもしれませんね。彼らの反省の弁を聞いてみましょう。
A社:いや、B社さんは他のどこの下請けさんよりもいいもの出してくれるんですよぉ。実はもうちょっと出してもよかったんだけどね、こっちも意地になっちゃって。200円は無理だけど、条件によっては180円くらいまではいけたかもしれないけど、まぁ無理でしょうな。超特急でやってもわらなきゃいけない契約でB社さんの忙しさじゃ無理でしょうね・・・。
B社:あいつぁよぉ、100円なんて馬鹿にした数字出すからいけねぇんだよ。おらぁ、最近まぁ景気悪いしさぁ、150円だしてもらわなきゃ、うち大赤字でつぶれちゃうんだよなぁ。あんま仕事なくてさぁ、金さえもらえりゃ、すぐにでも納品できたのによぉ。なんでもいいから仕事請けりゃいいのにってカァちゃんには怒られっぱなしでよぉ・・・。
ここで、ケンカの内容と彼らの独白の間の違いに気がつきましたか?
ケンカでは、値段のことばかり話題になってますが、実はA社は納期のことをかなり気にしてる様子ですよね。100円、という数字に縛られてしまって、納期のことを切り出すのを忘れてしまったみたいです。B社も、どうやらA社の希望する納期までに出荷できたみたいですよね。
もし、A社が納期のことを切り出していたらどうなっていたでしょう?
A社:では、単価100円で、納品時に一括支払いということで。
B社:そんなの無理ですよぉ、だんなぁ。うちはいつも200円で請けてきたし、急に言われてもねぇ。
A社:うーん、実はちょっと急ぎの仕事なんですよね。納期次第では考えさせていただきますが。B社さん忙しそうですからねぇ。
B社:100円ってぇのは話になんねぇけどよ。
A社:ええ、わかりました。いつごろまでに納めていただけますか。
B社:そうだなぁ、すぐってわけにはいかねぇけど、8月ってとこかな。
A社:でしたら、140円まで出せますかねぇ・・・。
B社:そら無理だ。
A社:では、もう少し早くしてもらえませんか。
B社:わかったよぉ、仕方ねぇなぁ、7月半ばでどうだ。これ以上は無理、お願い。
A社:そうですか、170円まで出しましょう。これ他の人には内緒ですよ。でも、7月ですと助かります。
B社:仕方ねぇなぁ、ま、やってやるよ。
A社:じゃ、単価170円で、納期7月半ばってことで。
B社:おお、まかせとけぇ。カァちゃん、祝杯でぇ!
となったかもしれません。現実はそんなには甘くない、とおっしゃる方も多いでしょう。確かにそうです。この交渉にだっていくらでも落とし穴はあります。B社が納期に間に合わなかったらどうするか、とか他にもいろいろ考えなければならないことはあります。しかし、納期というIssueを増やすことによって、確実に交渉決裂に陥る可能性は減ることは認めていただけますよね。
もし、なんらかの事情があって、納期が10月だ、と決められていたらこの交渉は決裂していたかもしれません。A社は10月にやってくる商品に170円もとても出せず、130円が限界だとしましょう。B社は納期なんてどうでもよくて、ただただ150円以上の単価にしなきゃ会社がつぶれる、としましょう。こうなると、どうやっても交渉は成立し得ません。
ここで、納期と単価という2つのIssueの関係はどうなっているでしょう。A社は単価よりは、納期のほうに重きを置いてますよね。B社はとにかく単価ばかり気になるわけです。つまり、A社とB社ではIssueの相対的な重みづけが異なっているわけです。これが、Integrative
Bargainingを成功させたコツなのです。
原則として、当事者が異なる相対的重みづけをしているIssueを交渉に持ち込むことにより(これがIntegrate:統合の意味です)、合意を見つけていこうというのがmutual
gains approachの考え方です。
経済学では、これをパレート最適・改善の考え方と言います。各人間で価値の異なるものを交換することで、各人の効用を高める、という原理はmutual
gains approachの根幹を成しています。そんなもの100年も前から分かっていることなのになぜいまさら交渉学なんて?と思われるでしょうが、交渉の多くがintegrativeな形になっていないのが現実です。最初の例のようなケンカ、よくありますよね。
さて、Integrative Bargainingが何か分かっていただけましたか?それでは私はまだしばらく休暇に入らせていただきます。みなさん、また会う日まで・・・。 |