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科学技術イノベーション政策

トランジション・マネジメント

地球温暖化や少子高齢化など、超長期かつ大規模な社会課題への解決に向け、草の根レベルでさまざまな取り組み(例:家庭での省エネや町会での見守り)が進められています。しかし、個人や仲間でいくら頑張っても、課題解決につながらないのも現実です。

なぜ草の根の活動を地球規模の課題解決へと結びつけられないのでしょうか?その障壁のひとつが、社会経済構造の強靭さです。法制度、技術、社会基盤、習慣、文化などの社会経済構造は、人々の社会経済活動を規定しますが、容易には変化しません。一部の人々が草の根活動を始めたとしても、社会経済構造の変化につながらなければ、大半の人々は行動を変化させることはありません。

持続可能な未来社会を目指すのであれば、草の根活動を超えた、社会経済構造の変革・転換・移行(トランジション)の方法論を検討する必要があります。しかし、トップダウンで新たな社会経済構造を強制導入する方法論(革命のようなもの)ではなく、変革の対象たる人々の民主的な参加が現代社会における政策プロセスには必要でしょう。

その一つの方法論として、「トランジション・マネジメント(transition management)」がオランダにおいて提唱され、実践されてきました。

トランジション・マネジメントは、持続可能な社会に向けて、ステークホルダーの合意形成を模索するのではなく、持続可能な社会に貢献する技術ニッチ(niches)を特定し、それらを現場で小規模に試行することで、技術ニッチと従来の社会経済構造を対峙させることで矛盾を明らかにし、ステークホルダーを支配する社会経済構造に再帰性(reflexivity)をもたらし、最終的に、技術ニッチが「あたりまえ」になる持続可能な社会へと導く、という考え方です。

これまで私が研究してきたステークホルダー合意形成は、目前の課題解決と効率化に有効ですが、社会経済構造(システム)を替えなければならないときには、負の影響をもたらす危険があることに実践を通じて気がつきました。トランジションを始めようとする段階から従来の社会経済構造の下で中心的役割を担ってきたステークホルダーと、社会経済構造の変革について(彼らの地位を毀損しかねないので、できるはずもない)合意形成を模索するのではなく、まずは新しいあたりまえが社会に敷衍した状況をつくってから、必要に応じて(新しい)ステークホルダーたちによる合意形成を促進するのがよい、という見立てです。この反省も踏まえ、トランジション・マネジメントの実践と研究を進めています。

研究・実践プロジェクト

研究成果(論文等)

  • 松浦正浩, 2020, 「持続可能なニュータウンに向けたトランジション・マネジメント-みそのウイングシティにおける実験-」, ガバナンス研究, 16, pp. 49-71.
  • 松浦正浩, 2018, 「2050年からの逆算で見える埼玉の住宅地の危機」, 埼玉司法書士会情報誌法Navi, 7, pp. 10-11.
  • 松浦正浩, 2018, 「日本におけるトランジション・マネジメントの実践:新興住宅地におけるワークショップ事例」, 地方行政, 10776, pp. 2-5.
  • 松浦正浩, 2017, 「方法論としてのトランジション・マネジメント:オランダの事例から学ぶ」, 地方行政, 10773, pp. 2-5.
  • 松浦正浩, 2017, 「オランダにおける構造改革の実現:ポルダーモデルを乗り越える」, 地方行政, 10771, pp. 2-5.
  • 松浦正浩, 2017, 「トランジション・マネジメントによる環境構造転換の考え方と方法論」, 環境情報科学, 46(4), pp. 17-22.