被災者の声に基づく課題分析
(ステークホルダー分析)調査

(Ver 1.0: 2011/4/4版)

東京大学公共政策大学院  特任准教授 松浦正浩

 

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分析結果のポイント

  • 情報不足と今後の方針、見通しが不透明なために被災者は不安を感じている
  • 避難所では助け合いの経験を通じてソーシャルキャピタルが形成
  • 集団疎開ではなく地域に残って復興を願う人も多数存在
  • 避難所から仮設住宅、応急住宅などへの移転を望む声は強いが、同時に震災前の人間関係が離散することへの懸念も強い
  • 子どもを抱える世帯のなかには遠方へと避難した世帯も多数存在する模様
  • 被災地の子どもたちには、震災前からの友人との接触とレクリエーションが必要
  • 喪失感を感じている漁業者・農家への精神的ケアが必要
  • 震災前から存在する医療・介護ニーズへの対応と医薬品の供給が必要
  • 復興に向けて身体的ハンディキャップを抱える人々(高齢者)への配慮が必要

要旨

震災発生から3週間が経過したが、未だ行方不明者の捜索が続き、被災者の方々は避難生活を強いられている状況にある。これから仮設住宅等への入居など、復興に向けて長期的かつ具体的な活動が始まるが、被災地域での生活支援や復興に向けた活動は、現地で被災された方々のニーズや関心に合ったものであることが望ましい。本調査では、朝日新聞の「被災者の声」欄に寄せられた304名(279件)の被災者の生の「声」をもとに、質的研究支援ソフトウェアを利用したステークホルダー分析を行い、現地の課題、被災者のニーズや関心を抽出・整理した。

被災者の声では、人間関係を重視して避難所で待機し、地域に残って復興に関わりたいとする者が多いものの、幼児・児童等を抱える世帯のなかにはやむなく他地域へと転出した世帯もある。避難所では食糧等の支援物資に加え、風呂や子どものレクリエーションなど、避難長期化に伴う多様なニーズが出てきている。また、震災に怯える子どもに加えて農業・漁業関係者の喪失感に対する精神的ケアの必要性が感じられる。復興については、仮設住宅等の早急な移転への希望と同時に、震災前の人間関係の解体を強く危惧する声が見られる。今後の復興支援活動にあたっては、現地の人々の多様な声に耳を傾け、特に、お互い助け合いながら現在も地域に残って復興に関ろうとする地域の人々の力を最大限に引き出す復興計画づくりが必要であろう。

 


T.本調査に用いたデータと分析の方法

朝日新聞が2011年3月17日*より掲載している「被災者の声」欄に掲載された被災者等の「声(コメント)」のうち、3月31日掲載分までの279件、304名の「声」を分析対象とした。テキストデータは朝日新聞データベース「聞蔵U」を利用している。それぞれの被災者の方々の「声」は個別のテキストファイルとして収集し、質的研究支援ソフトウェアNvivo7を利用し、本調査の実施者(東京大学公共政策大学院 松浦正浩)が、279件すべての「声」に目を通しながらコードを生成しつつ、コーディング、再コーディングを行い、類型、階層等を検討することで、U章以下に述べる、被災者の「声」の類型を整理した。

分析の対象とした「被災者の声」欄については、「声」そのものについて記者による編集が加えられていること、紙面に掲載する「声」の選択についても編集者、記者の主観が影響していることは認めざるを得ない。よって本調査結果も、多様な被災者の意向や懸念を網羅的かつ客観的にとらえていると自信を持って保証できるものではない。しかし、震災から数週間が経ち、避難されている方々の疲労が蓄積しつつあるいまこそ、復興に向けた迅速かつ適切な対応が求められるところであり、また、現地における広範な聞き取り調査は救援復興に向けての妨げとなりかねないことから、新聞掲載の「声」は二次データではあるが、分析対象として利用させていただくこととした。
なお、対象とした2011年3月18日〜3月31日掲載の304名の「声」について、対象者の属性は以下の通りである。

性別

174

127

不明

3

 

年齢

0〜9歳

13

10〜19歳

33

20〜29歳

17

30〜39歳

26

40〜49歳

30

50〜59歳

49

60〜69歳

85

70〜79歳

36

80〜89歳

12

90〜99歳

1

記載なし

2

 

お住まい

青森県

15

 

八戸市

12

おいらせ町

3

岩手県

82

 

 

 

 

 

 

 

大槌町

18

陸前高田市

16

釜石市

14

宮古市

13

大船渡市

12

山田町

7

その他

2

宮城県

78

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仙台市

16

石巻市

14

南三陸町

13

気仙沼市

11

名取市

5

塩釜市

4

多賀城市

4

七ケ浜町

3

東松島市

3

女川町

2

その他

3

 

 

福島県

91

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南相馬市

23

浪江町

16

いわき市

13

飯舘村

7

富岡町

6

福島市

6

大熊町

3

広野町

3

双葉町

2

楢葉町

2

川内村

2

新地町

2

須賀川市

2

その他

4

茨城県

28

 

高萩市

5

神栖市

5

鹿嶋市

3

潮来市

3

日立市

3

東海村

3

ひたちなか市

2

その他

4

千葉県

9

 

旭市

9

新潟県

1

 

三条市

1

 

(*本報告初回掲載時に3月18日より掲載、としておりましたが、正しくは3月17日でした。訂正いたします)


U.「被災者の声」の類型化結果

 279件の「声」について、その内容を類型化したところ、以下のように整理された。救援活動等において既に対応されている事項も多いが、今後の支援活動と、復興政策・計画の検討において、これらの意向や懸念を十分考慮すべきである。


1.震災後の対応に関する「声」 

1−1.安否の不安、遠方との連絡 
1−2.地域における連帯感の形成 
1−3.感謝の気持ち 
1−4.震災前の記録を求める気持ち 
1−5.避難の方法(遠方避難と帰宅)
 

2.避難に伴うニーズに関する「声」 

2−1.物資関連 
1)風呂、歯磨きなど「さっぱり」したいニーズ;2)食糧;3)衣類、靴など;4)幼児・児童向けのニーズ;5)その他のニーズ

2−2.医療、精神的ケア関連 
1)医療機関の存続が必要;2)医薬品不足;3)避難所での体調・衛生確保、医療アドバイスの提供;4)友人・仲間が必要;5)子どもたちのレクリエーションが必要;6)子どものメンタルケアが必要;7)避難所でのメンタルケア、苛立ちの管理が必要

2−3.移動手段関連 
1)燃料が必要;2)モビリティが必要

2−4.避難所生活関連 
1)十分な暖房が必要;2)プライバシーや気くばりなどからの疲れ

3.原子力災害関係の「声」 

4.復興とこれからについての「声」  

4−1.今後の見通しについての「声」  
1)情報不足・方針不透明による不安;2)生活の手段を失ったことの不安、喪失感;3)雇用への不安;4)進学への不安

4−2.今後の住まいに関する「声」  
1)地域に残りたい;2)仮設住宅(応急住宅)が必要;3)自宅の応急処置の迅速化が必要

4−3.産業復興に向けた「声」  

4−4.ハンディキャップを抱える人々への対応  

4−5.インフラ再整備  

4−6.行政・東電への不満、政策への要望  


1.震災後の対応に関する「声」

1−1.安否の不安、遠方との連絡

聞き取り時点で安否が確認できていない親族、友人への不安、連絡を取りたいという個別具体的な「声」が30件特定された。安否に関する「声」は、時間の経過とともに減少傾向にあるが、3月29日時点でも親族と連絡が取れず不安を訴える「声」もある。また、連絡先の記録を失ったために連絡ができないという「声」もある。

1−2.地域における連帯感の形成

震災後の炊き出し、協力をきっかけに、地域の人々でお互い助け合って生活していこうという連帯感、協力関係、社会関係資本の形成が見られる。具体的には、以下のような「声」が27件みられる。

避難所にいる人は、自分だけが被災者だと思わないで。助けてくれる役所の人も、みんなが被災者。助け合って、協力して乗り切ろう(高萩市・3/18)
集落の300人が食べ物を持ち寄り、炊き出しをして助け合っている(石巻市・3/23)
避難所では、いろんなお手伝いをしているうちに顔を覚えてもらったようで、声をかけてくれる人も増えた。新たに生まれた人のつながりを大切にしたい(仙台市・3/26)

1−3.感謝の気持ち

救援物資の提供をはじめ、ボランティア、顧客からの励ましなどへの感謝の声も多く、20件の「声」がみられる。

世界から物資をもらって、世界中のみんなにありがとうと言いたい。何とか命は助かって、不便は少しずつ解消されています(大船渡市・3/23)
ラジオで全国の方々のメッセージを聞いて、ありがたくて涙が出ています。避難所には続々と物資も届いている。皆さんに、本当にありがとうと言いたい。私たちも頑張らないといけないと思っています(南三陸町・3/25)

1−4.震災前の記録を求める気持ち

震災によって失ったものへの悲しみとともに、被災地で過去の記憶を蘇らせる品を発見したときの感情についての「声」が10件寄せられている。

自宅と一緒に結婚式のビデオや(子ども)が生まれた時からのアルバムも流されてしまったけど、またこれから新しい思い出をつくっていこう(大船渡市・3/18)
津波で流された自宅のものを毎日捜しています。自宅があった場所から500メートルほど離れたところで我が家の写真を見つけたときには、涙が出てきました(宮古市・3/31)

1−5.避難の方法(遠方避難と帰宅)

震災後、特に若年層が地域外の親族のもとへと避難している模様で、遠方への避難に関する「声」が8件みられる。同時に、避難所生活を強いられている人々は、一時帰宅を含め、早く自宅へと戻りたいという「声」が10件みられる。

多くの子どもたちが県外に避難し、海外に行った家族もいるようです(石巻市・3/25)
家に帰りたい。1日か数日で帰宅できると思っていたから、お金も通帳も着替えも持たずに避難した(大熊町・3/30)

 

2.避難に伴うニーズに関する「声」

2−1.物資関連

1)風呂、歯磨きなど「さっぱり」したいニーズ
避難所からのニーズに関する「声」では、風呂や歯磨きなど清潔感に対する希望、あるいは風呂に入れたことへの喜びが最も多く、23件みられる。震災発生後1週間後強は風呂に入れないとの声が多いが、月末が近づき、風呂に入れたことの喜びを表現する「声」が出てきている。

地震から5日間、顔も洗っていないし、歯も磨いていない。とにかく風呂に入りたい。(大船渡市・3/18)
自衛隊の方のおかげで10日ぶりにお風呂に入ることができました。すごく気持ちよかった。(女川町・3/26)

2)食糧
震災発生後1週間後程度では、食糧が底をつく危惧感が全般的に見られるが、その後は特に自宅に残っている人々が食糧への危機感を募らせている。ただし3月末に近づくと、食糧不足に関する「声」は見受けられなくなり、暖かい食べ物など食糧の質に関する「声」が増えている。

一日にカップラーメンとおにぎり1個でしのいでいる。(気仙沼市・3/19)
高台にあった家は幸い被害を免れたけれど、食料の配給は1日1回あればいいほうで、栄養状態が悪くて頭が働かない。(石巻市・3/21)
炊き出しの豚汁を食べた。あったかいのを食べたのは(震災後)初めて。(大槌町・3/25)

3)衣類、靴など
衣料を必要とする「声」も6件あり、震災発生後1週間後では下着に対する要望が強いが、月末でもいまだに衣類を希望する声があるほか、長靴、洗濯機などを希望する声もある。

逃げるときに水につかった服を乾かして着ており、今一番必要なのは衣類。(七ケ浜町・3/27)
長靴がほしい。物資の仕分けを手伝うとき、雨だとグラウンドがぐちゃぐちゃになる。(大槌高・3/28)

4)幼児・児童向けのニーズ
避難生活を強いられている人々に対するミルク、離乳食、おむつなど幼児向けの物資の供給が厳しかったことが震災発生後1〜2週間前後の「声」(6件)に見られる。また、子どもが教科書やノートを失い、勉強したいという「声」もあった。

6カ月の息子のためのミルク、離乳食、おむつの手持ちがあと少ししかない(鹿嶋市・3/17)
自宅が流されて、学校の教科書で手元にあるのは理科だけです。勉強がしたい。書きたいこともいっぱいある。ノートがほしいです(陸前高田市・3/18)

5)その他のニーズ
震災発生1週間後には水不足に対する不安が強く寄せられている(6件)が、月末には水に関する「声」は出てきていない。ほか、テレビ・ラジオ(2件)や、トイレ(3件)に関する「声」が寄せられている。

2−2.医療、精神的ケア関連

1)医療機関の存続が必要
被災地内でも医療機関が急患への対応、医薬品の供給などを行っているが、震災により現地の医療スタッフの負荷が増大しているとの「声」がある。また、震災前からの治療継続が困難な模様である。

地震後、一般診療をやめ、急患と薬の受け付けだけをしています。山場は越えましたが、薬が足りず、処方量を制限しています。泊まり込みで対応している約200人の職員の体調も心配ですが、力を合わせて乗り切りたいと思っています(県立大船渡病院・3/20)
かあちゃん(妻)は地震前日に抗がん剤を打って、5日間はおにぎり食べても吐いていた。(大槌町・3/21)

2)医薬品不足
医薬品が不足しており、患者への供給も制限されているとの「声」が6件みられる。これは3月末になっても同様の「声」が見られる。

とにかく薬が欲しいですね。病院に行っても『非常事態だから』と1週間分しかもらえません。家族は血圧が高かったり、膀胱(ぼうこう)に管を通したりしているので、薬がないとどこにも行けません。せめて1カ月分をまとめてもらえれば。(飯舘村・3/24)

3)避難所での体調・衛生確保、医療アドバイスの提供
避難所で体調や衛生面での不安があるほか、医療スタッフが不在のところでは、病気になった場合の不安を訴える「声」が5件ある。ただし、大規模な衛生面での問題が実際に起きたとの「声」はない。

震災後ずっと避難所にいる。途中、体調を崩し熱を出して、救急車で運ばれたこともあった。病院から戻ってからも、寒くて寒くて。(釜石市・3/27)

4)友人・仲間が必要
友人や友達と会いたい、一緒にいたいという「声」が23件ある。これは他の「声」と比較しても目立つ要望であり、避難所の運営や復興特に注意すべき事項であろう。また、そのような「声」は特に若年層から多く寄せられているほか、今後の復興で地域の人々の離散を危惧する「声」も多い。そしてそのような「声」は震災から時間が経過し、3月末が近づくにつれ多く寄せられている。

気の合う人たちといられるだけでもまだ幸せ。励まし合って頑張っています(神栖市・3/24)
今は避難している地区の住民が一緒にいるのでいいが、仮設住宅ができるとみんなと離ればなれになるのではないかと心配だ(山田町・3/27)
一緒に避難している娘は地震直後、怖がって私のそばを離れなかったけれど、避難所で友達と再会すると楽しく走り回るように。その姿を見て私も元気をもらっています(双葉町・3/29)
大の仲良しの○○君が兵庫県に転校していった。津波の日、みんなが泣いてもぼくは泣かなかったけど、○○君が出発するときは大泣きした。『いつまでも友だちだよ』と○○君に言ったら、『うん』と言ってくれた。津波がなければこんな悲しい気持ちになることはなかったのに。とても悔しい(南三陸町・3/31)

5)子どもたちのレクリエーションが必要
避難所生活で特にすることがなく、レクリエーションの場や資材を求めている「声」が15件寄せられている。

地震直後の土、日曜日も、サッカースクールを開きたかったけれど、それどころじゃないと、施設に断られてしまった。(南相馬市・3/19)
時間の空いたときに友達とサッカーをして体を動かしています。これが僕の唯一の気分転換です(大槌町・3/22)
孫は友達と早く学校行って遊びたい、と言っている。ゲーム機も持ってこなかったから、やることもなくてかわいそうだ(浪江町・3/29)

6)子どものメンタルケアが必要
子どもたちが地震に対して恐怖心を抱いており、復興に向けて精神的なケアを必要としている「声」が8件寄せられている。

震災後は夜も泣きながら震えていて、精神的にダメージを受けていないかが心配だ。子どもの様子がおかしいときに、すぐにケアできる態勢を整えてほしい(旭市・3/20)

7)避難所でのメンタルケア、苛立ちの管理が必要
子どもだけでなく、避難所生活の長期化に伴い、成人の間でもストレスが溜まって、一部でいざこざもあるとの「声」が6件見られる。また、これは後述する仮設住宅等への移動を希望する「声」へとつながっている。

プライバシーがない生活が長引くことでみんなのストレスがたまらないか不安(高萩市・3/24)

2−3.移動手段関連

1)燃料が必要
今回分析した被災者の声の中でも最も多かったのは燃料(ガソリン)不足に対する不安と不満の「声」(24件)である。燃料がないことによって、病院への移動や家族の安否確認などが遅滞することへの苛立ちが見られる。ただし、このような「声」も3月末に近づくにつれて(全くなくなったわけではないが)大きく減少している。

精密検査と治療を仙台の病院で受けるように言われたのですが、ガソリンが無いので行けません(名取市・3/18)
知人の安否を確かめに行きたいが、ガソリンが無い。避難所から毎日片道2キロ歩いて、家の様子を見に行っている。燃料がなんとかなればなあ(名取市・3/20)

2)モビリティが必要
燃料不足とも強く関係するが、移動手段不足に関する「声」が6件ある。個人所有の自動車での移動を前提とすれば燃料の供給が重要であろうが、燃料供給が限られる現状ではモビリティの観点からの支援活動も必要だと考えられる。一部、バスが開通したことによって、移動が可能となったことを喜ぶ「声」もある。

市の中心部に電話が開設されたようですが、車が流されて、電話をかけに行くことができません(釜石市・3/19)
盛岡市までの臨時バスが走り出したのでうれしい。(陸前高田市・3/20)

2−4.避難所生活関連

1)十分な暖房が必要
避難所が寒いとの「声」が12件寄せられている。ただし、このような「声」は震災1週間後に集中しており、3月末に近づくにつれ減少傾向にある。

ストーブもない廃校で、お年寄りたちが体を丸めて寒さに耐えています。(浪江町・3/18)
避難所では食事は十分にもらっているが、暖房が切られてしまう夜の寒さがこたえる(水戸市・3/27)

2)プライバシーや気くばりなどからの疲れ
2−2の7)と重複するが、避難所生活でプライバシーがないこと、他の人への気配りからの精神的ストレスなどによる疲れの「声」も多く、21件寄せられている。また、家族やペットなど周囲へ迷惑をかけるのではないかという気配りからあえて避難所を避けているという家族もいる。

何もかもが足りないが、雑魚寝をする生活は続けられない。仮設住宅がほしい。せめて、めどがつけば…(気仙沼市・3.20)
犬がいるので避難所では迷惑になると思い、がれきの残る自宅で過ごしている。(旭市・3/23)
夜泣きをするので、車中泊をしなければなりません。大人はある程度我慢できますが、子どもは大変です(南三陸町・3/23)
体の悪い母や0歳の孫がいて避難所生活は難しく、やむなくビジネスホテル暮らし。(いわき市・3/22)

2−5.防犯対策が必要

残念ながら現地では犯罪も起きているようで、実際に被害にあった方や不安の「声」が4件寄せられている。

同じ避難所で、駐車中の車からガソリンを抜かれた人がいる。被災者からこれ以上奪うのはやめて欲しい(気仙沼市・3/20)
家にあった今度小学1年になる長男○○のランドセルを買うためのお金も盗まれてしまいました。何とかして買ってあげたいです(仙台市・3/26)
※続報によれば、この「声」を見た熊本の読者がランドセルを送ったとのことである。

 

3.原子力災害関係の「声」


 原子力災害に関する「声」は3月末に近づくにつれ増えており、計20件の「声」が見られる。対策や説明を求める声、放射能汚染への懸念に加え、立地を受け入れてきたことに起因する政府・東電への不満の「声」も見られる。なお、原子力災害については福島県からの「声」が大半を占めている。

福島第一原発の爆発は、国が責任を持って対応してほしい。なにより現状や対策、今後の見通しなど情報が入ってこない。正確な情報をとにかく早く(南相馬市・3/18)
原発事故による放射能の汚染は子どもの代まで残したくない。東電は危険をどこまで取り除くことができるのか、きちんと説明してほしい(相馬市・3/24)
政府と東京電力は何やってんだ。福島は原子力で貢献してきたんだ。ガソリンぐらい早くよこせってえの(福島市・3/22)
原発事故の原因を『想定を超える津波』と一言で片づけず、学者らは科学技術を見直すべきだ。津波で亡くなった大勢の方が身を挺(てい)してそれを迫っている(郡山市・3/23)
避難生活が軌道に乗り、炊き出しも始まったと思ったら、県産野菜は食べるな、の通知だ。50品目あり、これじゃ何も食うな、と同じ。体調を崩す人も増えている。(浪江町・3/28)

 

4.復興とこれからについての「声」

4−1.今後の見通しについての「声」

1)情報不足・方針不透明による不安
現地での情報不足と将来見通しの不透明さについて、26件の声が寄せられている。情報不足については、初期には救援物資の所在といった情報を求める声が多いものの、3月末が近づくにつれ、原子力発電所関連の情報などが十分明らかにされていないという不安を感じる声が増えている。

物を買うにも、情報が少なく、どこの店に何があるかわからない。(大船渡市・3/18)
ただ、道を直すとか、仮設住宅を建てるとか、方針が決まったら早めに知りたい。先が分からないのが一番不安だ。方針さえ決まれば、生きている俺たちは、まだ働けるから(七ケ浜町・3/18)
今は学校が避難所になっているが、新学期が始まったら教室は使えないだろう。この先どこに行けばいいのか、何も聞かされていないのでとても不安だ。住むところがない人は、どうしたらいいのでしょうか(旭市・3/21)
父親が育った土地を見せられるのは1カ月後か、1年後か、永遠に無理なのか。どんな結論でも、はっきりすれば前に進めるのに。僕たちは何年後を目指せばいいんでしょう。国にきちんと示してほしい(南相馬市・3/25)
今、どういう状況か、いつ戻れんのか、分かんねから、みんな不安に思ってる。(南相馬市・3/28)

2)生活の手段を失ったことの不安、喪失感
漁船を失った漁業関係者、放射能汚染の影響を受けた農業関係者のなかには、生活の手段を完全に失ったとの意識が強い「声」が特に3月末に近づくにつれ、16件見受けられ、喪失感、無力感が強いと思われ、何らかの精神的ケアが至急必要だと考えられる。

シラス漁に使う船が、津波で海に沈んでしまった。今は船大工も少なく、当分仕事ができないだろう。(旭市・3/18)
ノリ、カキ、ワカメ。養殖の施設を全部持っていかれた。家も仕事場もなくなった。どうしたらいいのか分からない(石巻市・3/26)
船も道具も無くなってしまい、自分が生きている間は、再び漁師をするのは難しいのではないかとさえ思う。(山田町・3/27)
農家はこの先、無収入。土地も荒れる。その気持ちが分かるか(浪江町・3/28)
放射能の影響で農作物の種をまくのは無理かもしれない。これから先、どうなるんだろう(飯舘村・3/29)

3)雇用への不安
3月末に近づくに連れ、漁業・農業以外の産業に従事する者からの雇用への不安の「声」が挙がってきている。

俺はこの仕事しかしたことないので、つぶしがきかないんです。他の仕事をするのは難しい。今の会社が立ち直ってくれれば一番いいんだけれど(楢葉町・3/27)
トラック運転手をしているが、会社のトラックがたくさん流され、自宅待機を命じられている。仕事はどうなるのか。(山元町・3/28)

4)進学への不安
2件と少ないものの、4月からの進学について不安を寄せる「声」も見られる。

地元の教え子からは『大学にいけないかもしれない』というメールが届いた。優秀な子だったのに……。(大熊町・3/30)

4−2.今後の住まいに関する「声」

1)地域に残りたい
震災直後の対応としては、幼児等を抱える家族が親族等を頼って他地域へと避難したことが「声」のなかにも見うけられるが、一方、避難所などにいる人々は遠方へ移動することなく地域に残りたいという「声」を上げている人が16名いる。これは、2−2の4)と関係する事項で、友人や知り合いなどが全くいない土地へ移動するよりも、地域に残って仲間と復興に取り組みたいという意向の現れだと考えられる。ただし、この「被災者の声」は現地や集団避難先に残っている人々の「声」であり、すでに遠方の親族へと避難した人々の意向は不明であることに注意が必要である。

東京にいる娘は『うちに来て』と言うけれど、お父さんは、東京には友達がいないし嫌がるでしょうね。(山田町・3/22)
今回の震災でこの町の役に立つ仕事がしたいと強く思った。将来は警察官になりたい(大槌町立大槌中学校・3/23)
迷ったが村のみんなと一緒に頑張ろうと思う。(飯舘村・3/27)
地元住民ら延べ1千人以上のボランティアのおかげで清掃も進み、元の町の姿に戻りつつある。避難者がほかに移り住むことなく、また帰ってくれるのが何よりうれしいね(八戸市・3/29)
それでも陸前高田の自然が大好き。ここを離れる気はない。ちゃんとした避難場所や道路を整備すれば、また海沿いに住みたいという人もいるはず。(陸前高田市・3/30)
波の怖さも分かったけど、私はまた、海の近いこの土地に住みたいです。やっぱり、ここが私が生まれ育った土地ですから(宮古市・3/31)

2)仮設住宅(応急住宅)が必要
上記の地域残留意向の強さ、また避難所生活へのストレス(2−4の2))などから、仮設住宅の迅速な供給を望む声も強く、17件ある。地域の人々が再度集まって暮らすことができる場としての仮設住宅を望む声も強い。

仮設住宅の見通しが立たず、県営住宅にも申し込みが殺到しているらしい。住まいが見つからないのは本当に不安だ(旭市・3/19)
住宅ローンも残っている。市営住宅など代わりに住める場所を早く決めたい(八戸市・3/24)
このまま顔なじみが散り散りになってしまうことが不安でならない。早く仮設住宅を造ってもらい、仲間と一緒に引っ越したい(名取市・3/30)

3)自宅の応急処置の迅速化が必要
屋根が壊れた家についてはその修理資材や人員が不足しているので戻れないという「声」が2件寄せられており、仮設住宅等の整備とあわせて、既存ストックの修繕迅速化に向けた取り組みも急がれる。

地震で屋根が壊れたのに、修理の順番待ちが200件以上、1年も先になると聞いて困っている。(東海村・3/26)

4)金銭面での懸念
住宅の再建を希望しつつも、多額の資金が必要であるとともに、失った住宅についてもローンが組まれていることや高齢者であることがネックとなり融資が得られないのではないかという不安が強く、支援を求める「声」がある。

家を建て替えたくても、70歳近いのでお金を貸してくれないだろう。年金を前借りしてプレハブ小屋でも建てるしかないかと思っている(涌谷町・3/19)
津波で被害にあった自宅を修繕するのに1千万円近くかかると建築士に言われたが、政府はどういった助成をしてくれるのか。お金を借りたくても銀行は貸してくれないでしょう。(仙台市・3/31)
市内で津波の来ない高台に土地がほしいが、無理だと思う。また家を建てて津波が来たら、自分たちもさらわれようと話している。(気仙沼市・3/20)

4−3.産業復興に向けた「声」

4−1の2)で述べたとおり、生計の手段を失ったことによる喪失感を伴う「声」が多数あるものの、同時に、事業の再開に向けたポジティブな声も10件見受けられた。また海に出たい、店舗を再開したい、音楽活動を再開したいといった「声」もあり、これらの意向をいかに支えていくかが今後の政策課題となるだろう。ただし、漁船については船大工の不足を危惧する声があった。

シラス漁に使う船が、津波で海に沈んでしまった。今は船大工も少なく、当分仕事ができないだろう。後継ぎがいないなか40年以上頑張ってきた仕事が奪われてしまうのは、とても寂しい。一日も早く海に戻りたい(旭市・3/18)
電気もテレビもあるから、船での避難生活はマシな方。家はダメだったが、家族は無事だった。命より大事な船もある。いつかまた必ず海に出る(石巻市・3/26)
ちゃんとした避難場所や道路を整備すれば、また海沿いに住みたいという人もいるはず。自分が、何もなくなったあの場所に復活の1号店を建てたい(陸前高田市・3/30)
外枠だけが残った自宅から、創作音楽グループで使っている和太鼓を見つけた。少しぬれているがほとんど無傷で、待っていてくれたかのよう。尺八などほかの楽器は流されてしまったが、太鼓は乾かして、生まれ育った町の復興の音色にしたい(大槌町・3/25)

4−4.ハンディキャップを抱える人々への対応

高齢者や身体に不自由を抱える人々が、復興に際して思うように体が動かないがゆえに、家に戻れず、片づけなどができず、結果として避難所にとどまらざるを得ないという「声」が7件寄せられている。介護施設の再整備など、ハンディキャップを抱える人々への支援も必要とされている。

目の見えない人は手を引いてあげないと動けないので状況は厳しい(福島市・3/20)
独り身で半身が不自由だから、家に帰ることができない。このまま市の世話になることになってしまうのかな。(ひたちなか市・3/21)
車いす生活のため、部屋に戻っても片付けられず、ずっと避難生活が続きそう。(仙台市・3/24)
電気もないなか、自宅で介護している人は苦労している。介護施設の整備がスムーズにいけば、みんな安心して生活できるはず。(陸前高田市・3/24)

4−5.インフラ再整備

3月末迄の時点ではインフラ整備についての「声」はほとんど見られず、道路上の廃棄物やがれきの除去(2件)、漁港の再整備(1件)「高くて丈夫な堤防」(1件(13歳より))などについて意見がみられる。

港の復興のため、壊れた防波堤を直し、海底の砂やがれきをさらってほしい。港の一部は漁船が接岸できないところがあり、北海道で水揚げしている船もあります(八戸市・3/28)

4−6.行政・東電への不満、政策への要望

 原子力発電所から放出された放射性物質の影響を受け、行政や東電に対する不満をあらわにする「声」が5件見られる。また、行政(政府・自治体)や東京電力の幹部が避難所に顔を出し、現場を見て、説明を行っていないことなどに対して、不満の「声」も4件見られる。

政府、東電は根拠となる数字を持っているはずだ。正直に『いつまで』と言ってほしい。(浪江町・3/28)
もう2週間もたって、大臣でも何でも、国の人があっちこっち避難所回って説明に来ねぇ、ってのはどういうことなんだ。(南相馬市・3/28)
東電の社長さんはこういうところに顔を出さないのですかね。直接会って話をしないと通じないものがあると思います。社長さんは誠意を見せて欲しいですね(大熊町・3/31)